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拍手文 2011/2 [過去拍手文]

2年前・・・?!

なんと。このころは毎月書いていたんですね~~~体力あったな・・・

ちょうどギリギリ2月のでした。よかったです(私の気分ですが)









節分

「主上、朝でございます」
珠翠の声で劉輝が目を覚ますと、冬の朝は晴れていた。
後宮のそこかしこで女官たちが炒った豆を外に向かって撒いている。
「今日は節分か」
「はい。後ほど正装に着替えていただきます」
季節の変わり目には邪気(鬼)が生じると考えられているため、
炒った豆を撒いて鬼を払う行事が行われるのだ。
「あ、今年は南南東が恵方ですので」(2011年)
「わかったのだ」
女官の可愛らしい『鬼は外、福は内』の声を聞きながら劉輝は朝餉を取るために廊下を歩いて行った。

行事は何事もなく終わったが、朝廷の中は騒然としていた。
「来る、奴らが来るぞ」
「大事な物はしまっておけ!」
「窓は開かないように・・・き、来た!」
どどどどど・・という地響きをたてて、扉や窓を抑える文官をものともせず、武官がなだれ込んで来た。
『鬼は~~~~~外~~~~!!!!』
バチバチバチと豆が投げ付けられる。武官の手によって投げられるので、当たると痛い。
『福は~~~~~!!!!!内~~~~!!!』
文官も負けずにこのやろうとばかりに豆を投げ付ける。
「痛って~~!」
「やりやがったな」
「この~~!」
毎年恒例の節分大会が始まった。

「李侍郎は?」
「あれ?いない?珀明!李侍郎はどうした!?」
「絳攸様は、紅尚書と退出されて・・・いませんか?」
「「「「「まさか・・・迷子に・・・」」」」」」

よりによってこんなときに・・・
凍りつくような吏部室の寒さに飛び込んできた武官達が震えあがったのは言うまでもない。


拍手ありがとうございます。
まさかの双花出番なし・・・いえ、一応あります。









節分と言ったら・・・


絳攸は外朝の回廊でうろうろしていた。

「李侍郎、危ない!」
抱きつかれると、押し倒された。
パラパラパラと豆が覆いかぶさる男に当たる。
「よかった、痛くなかったですか?」
満面の笑みを浮かべた男が見下ろしてくる。
「あ、ああ」
さっきからこんなことの繰り返しだ。

黎深様の後をついて歩いていたはずなのに、いつの間にかはぐれていた。
節分の行事の後に文官、武官対抗の節分大会があると分っていたから、早く吏部に帰りたいと焦っていた。辿りつく前に始まってしまったから、さんざん豆をぶつけられると覚悟していたのに。
少し歩く度にいろんな部署の人間に庇われている。

「吏部はこの先を右ですよ」
「・・・分った」
そうして数歩進むと、『李侍郎!』とまた他の男が飛びついてきた。
豆は当たらないけれど、いい加減疲れる。いつになったら吏部まで行けるのか・・・。

そう思っていたら、自分の上に乗っていた文官がひょい、といなくなった。
「絳攸、何してるの」
見慣れた男の笑みに、むっとしながら答える。
「なんだ。お前は今日は敵だろう」
「まさか。私はいつでも君の味方だよ」
だから、こいつらは片付けなくちゃね。そう言って手に掴んでいた文官の男を背後に投げ捨てた。
「あ、俺を助けてくれたのに」
「助けてくれたと思ってるんだ?」
文句を言う絳攸をかわいいねぇと楸瑛は見つめた。
豆から守ると言って、抱きつく口実にしているのに気がつかない絳攸は初心なのか、鈍いだけなのか。

「本当に守るって、こうするんだよ」
楸瑛はそう言うと、外套で絳攸を包むと抱き上げた。
バチバチと楸瑛に豆がぶつかる。
文官、武官両方からの豆攻撃をものともせず、楸瑛はゆっくりと回廊を歩いていった。

あとには、李侍郎に抱きつく一年に一回の機会があああ、と泣き崩れる文官達が残されていた。


あれ?楸瑛がいい人に・・・・おかしいな。










節分と言ったら、やっぱり。



外套に包まれていたし、楸瑛の腕に守られてもいたから、
それほど豆も当たらず痛い思いはしないですんだ。
使われていない一室に入ると、楸瑛の腕から下ろされる。
「吏部じゃないのか?」
「今はどこも修羅場だよ。しばらくここで潜んでいよう」
たしかに遠くから悲鳴やら怒号が聞こえてきて、吏部に戻っても仕事など出来ないだろう。
「座って」
長椅子に、楸瑛と二人で座る。
使われていない室だから、火鉢も置いていない。
一枚しかない外套に二人で包まるのは寒いからだ。
手を繋いだのは、寒いからだ。
触れあう躰が熱く感じるのは、寒いからだ。

どうしよう、と思う。
どうしよう。
楸瑛のぬくもりが心地よくて、ずっとこのままでいたくなる。
おかしいと思う。ただの腐れ縁なのに。

困っているときに、いつの間にか現れて助けてくれる男に、心が動かされていることは知られたくない。
でも、
今、
告白されたら・・・抗うことは出来ないかもしれないと思う。
そんなことを考えていたから、楸瑛に話しかけられて躰が震えた。

「絳攸・・・」
間近に見える真剣な楸瑛の顔つきに、繋いでいない方の手で外套を掴む。
「な、なんだ」
何を言う気だ。と絳攸が身構えた。

「私の恵方巻きを食べてくれない?」

ごそごそと下穿きを緩めようとする楸瑛に、
「誰が食うかああああああああ!」
絳攸は黎深様特注の鉄玉を懐から出して、思いっきり投げ付けたのだった。



拍手、ありがとうございました!
今年の恵方は南南東です。(2011年)

「さっきの楸瑛うんぬんは、気の迷いだからな!」
絳攸がそう申しております。




拍手文 2011/1 [過去拍手文]

1月の拍手文です。

姫始めにしたかったんですけれどねぇ・・うそです(笑)


彩雲国に年賀状があるのか!とか、細かい事は笑って見過ごしてくださいね。





年賀状




新年の紅家貴陽邸は慌ただしい。
紅家縁の者達が、当主の黎深に挨拶に訪れるからだ。

一番大きな客間に黎深と百合が座り、年賀の挨拶をするだけなのだが、
その後に別室で供される食事の指示などは絳攸の仕事だった。
さすがに紅家になると訪れる人数は半端なく、また、家の格などにも配慮しなくてはならないから、絳攸は気疲れも合わさって夜になるとぐったりした。

「絳攸様、あとは私達にお任せください」
家令にそう言われて甘えることにする。
自室に戻ると侍女が甘い菓子とお茶、そして年賀状を持ってきてくれた。

各州に赴任された同期や同僚からの一年に一度の便りは、なくても困ることは無いけれど、
もらえると嬉しいもので。結婚したとか、子どもが生まれたなどの喜びを分けてくれるのだ。
吏部官吏達からもきていて、「どうか尚書が仕事をしますように」などと苦笑するしかない願いが書かれていたりする。

最後に手にした年賀状で絳攸の手が止まった。
差出人は藍楸瑛。昨日まで王と執務室にいた腐れ縁だ。
「しょっちゅう会っているのに・・・」

そう思いながら飛び込んできたのは、『結婚しました』の文字
「いつの間に?水臭い奴だ」
知らせてくれたら、祝いの品くらい届けたものを。そう思いながら、胸が苦しくなるのは菓子を食べすぎたせいだと思う。
「どんな女人なんだろう」
二人が寄り添う絵姿が添えられていた。

青銀の髪の毛に・・・白い肌。絵が小さくて見にくいけれど、瞳は菫色のようだ。

・・・・・・なんか、俺に似ているな。

俺みたいな容姿が好みだったのか?・・・・・・まあ、好きだの、愛してるのと戯言をいつも言っていたけれど。
名前は・・・李絳攸さんっていうのか。

え?

もう一度書かれている名前を見直した。
確かに 旧姓 李絳攸 とある。
李姓は一番ありふれた名前だけれども・・・・。

混乱している絳攸の室に養い親が入ってきた。
「お前はいつの間に藍楸瑛の嫁になったんだ?」
手には絳攸が持っているものと同じ年賀状がひらひらと揺れていた。




ありがとうございます!
さて、楸瑛は何人に年賀状を書いたのでしょう?






まだ年賀状



藍家貴陽邸
こちらも年始の挨拶に訪れた客たちで賑わっていた。
紅家と違うのは、貴陽での本家直系の楸瑛が一緒に宴に加わっていることだ。

賑やかな室の扉がバアン!とけたたましい音をたてて開かれた。
現れたのは、憤怒の形相をした絳攸だった。手には年賀状が握り締められている。
「楸瑛!なんだ!この年賀状は!」
と怒鳴り付けた言葉は歓声によってかき消された。
「「「「「「「楸瑛殿の嫁が来た~~~~!」」」」」」」

わぁ!と上がった歓声に、なんなんだとうろたえる絳攸を人々が取り囲む。
「ようやく姿を見せてくれましたな」
「いや~めでたいですな!」
「家の娘を嫁にと思っていましたが、あなたなら仕方ありません」
理解できない言葉の波に気押されて、絳攸は楸瑛の元に駆け寄った。
「みんな酔っているのか?わけの分らないことを」
「ああ、大丈夫だよ。安心して」
にっこりと微笑む楸瑛の笑顔はいつもの楸瑛で、ほっと胸をなで下ろしかけて、
はた、と気付く。
そうだ、文句を言いに来たのだった。
「楸瑛、お前なんで」
こんな年賀状をという言葉はまた遮られた。
「新婚のお二人をいつまでもここに引きとめておいてはいけませんな」
「そうじゃ、気が付くのが遅かったわ!」
「さあ、紅閨の寝所の用意は出来ておるか?」
紅閨?それって、新婚の寝所のことじゃないか?あからさまな言葉に真っ赤になる絳攸を藍家の人々は初々しいと微笑ましく見ている。
開放的な雰囲気は流石に藍家だな、などと感心している場合ではない。

「楸瑛、早く勘違いだと言え!」
楸瑛に縋りつく勢いの絳攸をひょい、と抱えて楸瑛は集まった人々に宣言した。
「皆の申し出をありがたくうけよう。今年が皆にとって良い年であるように」
また湧きあがる歓声に見送られて、楸瑛と絳攸は室を出た。

「お、お前!お前!なんてことを言うんだ!」
「せっかくの皆の気持ちを無下にはできないでしょう?」
「何が無下にだ!早く下ろせ!」
ばたばたと暴れる絳攸をものともせずに楸瑛は自分の室に向かって歩く。
「そうだ!なんだこの年賀状は!これが勘違いの根源だろうが!」
皺皺になった紙切れを楸瑛につきだすと、ああ、という顔になって楸瑛が笑った。
「ちゃんと読んでごらんよ。『そうなったらいいな』って書いてあるから」
慌てて皺を伸ばして良く読むと、確かにそう書いてあった。本当に小さな小さな字で。

「まさか絳攸に正月から会えると思わなかったよ。年賀状を出した甲斐があった」
呆然とする絳攸ににっこりと微笑んで、楸瑛は、逃がさないからね。と囁くと
寝所の扉を閉めたのだった。


拍手ありがとうございます~~~。
おめでたいお正月なので、たまには楸瑛にいい思いをさせてあげようと思います。
拍手の楸瑛はいつも可哀そうなので(笑)


絳攸はにょたでも、どちらでもいいように書きました。
藍家ですから、その点はおおらかな気がします(笑)



今年もよろしくおねがいします。




拍手文 2010/12 [過去拍手文]

12月の拍手文です。

12月と言えば、クリスマス・・・なんでしょうけれど、
私が餅好きなので、餅つきです。





餅つき



ぺったん、ぺったんと餅をつく音が朝廷に響いていた。
もち米を蒸す湯気が立ち上り、杵を持つ者、つきあがった餅を丸める者で賑やかだ。
今日は仕事納めの餅つき大会が行われている。

「お前は羽林軍だろう」
臼の前で絳攸は冷たく言った。言われたのは左羽林軍将軍の藍楸瑛。
「武官はあっちだ」
絳攸が顎で示した先には、餅つき大会に便乗した左右羽林軍の対抗戦が行われている。
石で作られた臼が割れそうな勢いの男の闘いだ。

あれで食べられる餅が出来るのだろうかと心配するほどだったが、
家事万端に精通している静蘭が厳しく点検しているので、見事な餅が恐ろしい早さで出来上っている。

武官が大騒ぎしている横で文官達がのんびりと餅をついていた。
こちらは競争ではないので穏やかなものだ。
特に戸部は返し手が景侍郎なので、ほわわんとした雰囲気を醸し出していた。

「いいじゃねえか、一緒に餅ついてやれよ」
酒を飲みながら杵を持つ工部の管尚書が声をかけてきた。欧陽侍郎が餅が酒臭くなると怒鳴っているが、酒臭くなるよりそのジャラジャラしたのが餅に混ざるんじゃないかと周りに心配されていることには本人は気付いていない。
「どうせ黎深は来ねえんだろ?」
ビシッと絳攸のこめかみに青筋が浮かびあがる。尚書と侍郎で一臼つく事になっているのに、あの我儘大王はとんずらこいているのだ。

「よ、余は絳攸達がついた餅が食べたいのだ」
主上にまで気を使わせてしまった。絳攸はため息をつくと侍官に蒸したもち米を持って来るように頼み返し手の準備を始めた。
杵を持つ楸瑛はにこにこと嬉しそうだ。たかが餅つきで何がそんなにうれしいんだか。
怪訝に思う絳攸に、楸瑛が嬉し恥ずかしといった声で話かけた。

「絳攸、はじめての共同作業だね」(ポッ←頬を染める音)

「気持ち悪いことを言うなあああああ~!」
楸瑛は蒸したてのもち米を絳攸にぶつけられたのだった。






まだ餅つき




大事な食べ物を台無しにしてしまうなんてと絳攸は反省していた。
たとえ常春大馬鹿野郎に腹が立ったとしても、食べ物には罪はない。

「代われ、俺がつく」
楸瑛から杵を奪いとると、侍官にもう一度もち米を臼に入れてもらって餅をつきだした。
最初はもち米をつぶしていく。臼の周りをまわりながら体重をかけて杵で丁寧につぶして、米粒がだいたいつぶれてきたら、杵の重さで落とすようについていくのだ。

ぺったん、ぺったんと餅をついていく。
「絳攸、慣れたもんだね」
こういう力仕事は慣れていないだろうと思っていた楸瑛が驚くような上手さだ。
「毎年ついているからな」
「紅家では餅つきするのかい?」
「ああ、黎深様がお汁粉がお好きだからな」
紅家の正月はお雑煮ではなく、お汁粉だ。正月だけではなく、頻繁に朝ご飯にも登場する。
紅家本家も卲可様のところも正月はお雑煮らしいから黎深様がお好きなのだと思う。
・・・そのわりには美味しそうには食べていないけれど。

「愛されてるねぇ・・絳攸」
「杵で頭をかち割ってやろうか?」
一般の家庭で行われる餅つきを養い子に体験させていることに絳攸は気付いていない。
貴族では餅は使用人が用意するのだから。

つき手と返し手が声を掛けながらつくと調子が合ってやりやすいのだが、絳攸と楸瑛は無言だ。それでもすんなりとついていくのだから、やはりこの二人は相性がいいのだろう。
しばらくすると滑らかな餅がつきあがった。

楸瑛は出来たての温かい餅に手を添えて愛しそうにつぶやいた。
「絳攸の・・・おしりみたいに柔らかいね」
「本当に頭をかち割られたいらしいな」
絳攸は暗い笑みを浮かべながら杵を振り上げた。


拍手、ありがとうございます!


絳攸は楸瑛を追いかけまわすのに一生懸命で、餅を丸めている官吏の皆さんが手に持った
餅で『李侍郎って・・・・こんなに柔らかいんだ』と想像されていることには気付かないと思います。思わぬところで癒し(?)を提供した絳攸です。








拍手文 2010/11 [過去拍手文]

11月の拍手文って出してなかったですね?!

わぁ、すみません。

今回は親子です。

絳攸はどちらでもいいように書きました。(多分)









朝から貴陽紅邸は慌ただしかった。
「奥様、これを」
「髪型はいかがいたします?」
「だんな様、こちらのお召し物を」
・・・・・忙しそうだな。
その中で絳攸はゆっくりと朝ごはんを食べていた。
忙しい中心は黎深と百合だったからだ。
・・・・休みでもないのに。もしや黎深様は今日休むつもりでは?
ただでさえ忙しい吏部だ。勝手に休まれると困ると思いかけて、絳攸は諦めた。
・・・・尚書がいないのはいつものことか。
黙々と朝ごはんを食べる。

「絳攸、どうだ」
扉が開いて、絢爛豪華な衣装を身に付けた黎深が現れた。
「・・・・・・どうしたんです。朝賀みたいな格好をして」
いや、朝賀の時より豪華だった。
「そんな格好で出仕を?」
「今日は休む」
「黎深様!」
「そんなことはどうでもいい。絳攸、似合うか似合わないかを聞いている」
扇で絳攸の顎を持ち上げて聞いてくる。扇まで豪華になっていた。
「お似合いですよ。盗賊に身ぐるみはがされないように気をつけることですね」
「ふん」
憎まれ口をたたいたが、紅色で飾り立てた黎深は確かに似合っていた。
「黎深、絳攸にからむんじゃないよ」
現れた百合を見て、絳攸は驚いた。こちらも豪華な衣装を身にまとっている。
そして、とても美しかった。

「綺麗です、百合さん」
ぽろりと本音を漏らす絳攸に、百合がうれしそうに微笑んだ。
「簪はどうした」
「もういいじゃないか。頭が重くなる」
「いいわけあるか、来い、選んでやる」
「黎深が選ぶと、派手になるから嫌だ」
ぎゃあぎゃあ騒ぎながら、二人は出ていった。

・・・いったい、何が。今日はなにか祝い事があっただろうか?

ふと、日付を思い出して、絳攸はふふっと笑った。

「そうか、今日だったか」

今日は二十二日、いい夫婦の日。
黎深と百合が貴陽の「いい夫婦」に選ばれて、式典に呼ばれた日だった。

「嫌だこんなの!」
「なんだと!?」
遠くの室から二人の声が聞こえてくる。

「喧嘩するほど仲が良い・・・か」
絳攸は嬉しそうに笑って、卵焼きをぱくりと食べた。







いい夫婦の日 その後 



「そうか、今日はいい夫婦の日なのだな」
執務室での休憩中、絳攸はお茶を飲みながら今朝の話をした。
「そうなんです、黎深様が妙に張り切ってましてね」
「あの、紅尚書が・・余も早く秀麗といい夫婦になりたいのだぁ~」
「・・・・・・・・・」
「そのためには、立派な王にならないとな」
「がんばるのだ~~」
「・・・・・・・・・」
いつもは会話に入ってくる楸瑛がさっきから無言だった。
「楸瑛はどうしたのだ?」
「さあ?腹でも痛いんじゃないですか?」

「ちがいます・・・・」

「何か悩み事か?余でよければ聞いてやるぞ」
「休憩時間中に終らせろよ」
冷たく言った絳攸をチラと見て、楸瑛は劉輝に話し出した。

「がんばったんですよ。藍家家人総出で、書いて書いて書きまくりました・・・・」
もしかして、いい夫婦の日の話か?
たしか、いい夫婦だと思う夫婦を葉書に書いて送り、その数で決まるらしい。
「お前の兄夫婦も仲良しだが、藍州に住んでいるからな。貴陽に住んでいる人間が対象らしいぞ」
かなり落ち込んでいる楸瑛を慰めようと絳攸が言った。
「ちがうよっ!絳攸!兄上夫婦なんか書いてないよっ!」
「???じゃあ、誰を書いたんだ?」
藍家家人総出で書いたくらいだ、相当の有名人に違いない。
「君と私に決まっているじゃない!」

「夫婦じゃないだろうがああああああ~~~!」
涙目で訴える楸瑛に、絳攸は怒鳴って殴り飛ばした。

なんとなく察知した劉輝はさっさと避難していた。
喧嘩する二人は微笑ましい。だが、
「楸瑛、まずは恋人になってもらうのが先なのでは・・・・」
そう思いながら、劉輝はお茶を飲んだのだった。


拍手、ありがとうございました!






拍手文 2010/10 [過去拍手文]

あの・・・・今さらなんですが、
10月の拍手文・・・忘れてました。

ホントに申し訳ないです。

基本的には拍手文の楸瑛はおバカさんです。

カッコイイ楸瑛が大好きな人は・・・・読まない方が(笑)












読書週間
 

「お前の邸に行っていいか?」
執務室からの帰り道で絳攸が聞いてきた。
「大歓迎だよ!いつ来る?泊まっていくかい?」
「そうだな、そうさせてもらうかも知れん」
「~~~~~!!!!」
絳攸が自ら楸瑛の邸に来たがるなんてめったに無いことだ。
いつも花が、月がと理由をつけては誘って玉砕している。それなのに、泊まる?
楸瑛はうれしくて、飛び上がらんばかりだった。

待ちに待った公休日。
楸瑛は朝からそわそわしていた。絳攸の好きな料理に、菓子も酒も用意した。
敷布にも香を焚き込んであって、用意は万端だった。
(何の用意かは聞かないでくださいね)
拍手文の題名が色気が無いことが気になるが、は、もしかして、書庫で?
などとドキドキしているうちに、絳攸が着いたことが知らされた。

「悪いな、昼過ぎに来た方が迷惑にならないと思ったのだが、待ち遠しくてな」
絳攸も待ち遠しいと思ってくれたのだ。楸瑛はジーンとした。
やっと、やっと想いが・・・・。感動している楸瑛に、絳攸がにっこりと笑顔で言った。


「で、お前が最近大量に仕入れた本はどこなんだ?」


・・・・・・・。
ま、負けるものか、ここでお約束などと終られたら5月と変わらないではないか!
楸瑛は、くじけそうな心を叱咤した。そうだ、書庫で愛を語ってもいいじゃないか。
あそこはもう涼しいし、良い感じに薄暗い。よし、そうしよう。

「ははは、絳攸は本当に本が好きだね。お茶の用意をさせよう、書庫で・・・・」
お茶でもと続けようとして、楸瑛はあることを思い出した。


最近仕入れた大量の・・・本?


さあっと、楸瑛の血の気が引いた。それは、もしかして先日行われた同人誌即売会で影まで使って購入しまくった、『絳攸桃色草子』のことなのでは?

書庫だけは迷子にならずに辿り着ける絳攸がすたすたと先を進む。
「こ、絳攸、ち、ちょっと待って、ね、さ、先に部屋でお茶でも」
「ああ、本を選ばせてもらったら、頂こう」

「ちょっと、待ってえええええ~~~!」
楸瑛の絶叫が藍家貴陽邸に響き渡った。


拍手ありがとうございます!

読書週間は、10月27日から11月9日までの2週間です。
この間は読書を推進する行事が集中して行われるそうです。
秋の夜長に、ゆっくり読書もいいですね。




まだ読書週間


双花菖蒲は同人誌でも人気でたくさんの種類の本が販売される。先日も影を使ってやっと全部購入できたくらいだ。
そしてその本は書庫の卓子に山のように積んであるはずだった。

絳攸に見られたら・・・。
楸瑛は焦りまくりながら、絳攸が書庫に行くのを止めようとしたが、本が大好きな絳攸には何も効果がなくあっけなく書庫の扉は開かれた。

ギイィ

ああ、・・・・・・・もうだめだ。
がっくりとうなだれている楸瑛に絳攸が聞いてきた。
「楸瑛、新しい本はどこだ?」
どこって、目の前に積んであるじゃないか・・・。そう思いながら、見ると卓子の上には何もなかった。なぜだと不思議に思っていると、家令が絳攸に声をかけた。

「絳攸様、若様が最近買われた本をお探しでしょうか?」
「ああ、たくさんの本が運び込まれたと噂で聞いて」
「それでしたら、藍州の御兄弟や姫様方にお送りいたしました。もうすぐ読書週間ですので、若様が本を贈られたのです」
家令はそう言って、流行の衣装の本や、医療、芸術、小説の題名をあげた。
「・・・・そうか。残念だが、楸瑛いいことしたな。」
絳攸は感心して褒めてくれたが、楸瑛には何のことか解らない。
「え?・・・ああ、そうだね」
「ところで、絳攸様はこの旅行記はもう読まれましたでしょうか?」
家令が差し出した本を見ると、絳攸は満面の笑みを浮かべた。
「買いそびれた本だ。楸瑛、これを貸してくれるか?」

気に入った本を手にほくほく顔の絳攸と自室に戻る途中、家令がこそりと楸瑛に耳打ちした。

「あの本は、若様のお部屋の箪笥に隠しましたので、ご安心ください」

藍家家令の給料がアップしたのは言うまでもない。




やっぱり読書週間


カサリ、カサリと絳攸が本の頁をめくる音。
卓子の上には花の香りのお茶。
楸瑛の室では静かな時間が流れていた。

絳攸は本を読みだすと夢中になってしまって口もきいてくれなくなる。
その間、楸瑛は絳攸を眺めてすごす。

色素の薄い長い睫毛、口元は好きな本を読んでいるせいか微笑んでいる。
・・・・ああ、なんて可愛い。

楸瑛は大好きな菫色の瞳を見たくなって、少しだけ絳攸に近づいた。
「わっ」
下ろしていた髪が触れてしまったらしい。絳攸は驚いた拍子に卓子の茶碗をひっくり返してしまった。服にもお茶がかかってしまっている。
「ああ、驚かせてしまったね。熱くなかったかい?着替えを出すよ」
藍色の衣服しかないけれど、今だけでも藍色の服を着た絳攸を見てみたい。
そう思って、箪笥の扉を開けた。

バサリ

「楸瑛、何か落ちたぞ」
「ん?」

黒い表紙に双花菖蒲が描かれたそれは、一番人気の絵師と作家の合同誌。
『絳攸黒草子』(24禁)だった。

しまった、家令が言っていた箪笥はこれだったのか、早くしまわなければ。
慌てて楸瑛が拾うまえに、絳攸がさっと拾い上げていた。

「こんな本、出ていたか?」
あああああああああ~~~~!開かないで~~~~~!
楸瑛の心の叫びもむなしく、絳攸がパラリと表紙をめくった。



パラリ、パラリ、と絳攸が頁をめくるたびに、楸瑛の寿命が短くなる気がした。


「な、なんか絳攸に似てるよね、髪の色とか、き、奇遇だね。それに、黒髪なんかいっぱいいるしね。」
絳攸の手が止まった。
ちょうど、挿絵の絳攸(に似た絵だけどね!)は両手を縛られて、背後にいる自分(に似て描いてあるだけなんだよ!)が道具を使って責めていた。
は、はやく、閉じて~~~!
「似ているだけか?『あん、あん、しゅうえい、はやく』『なにが欲しいか言えたらあげるよ、絳攸』とあるが?」
そんな、無表情で科白を読み上げなくても・・・・。
びくびくしている楸瑛を尻目に、絳攸はびりりっと本を真ん中から破り捨てた。

「ああああああ!何するの~~~!!!」
「何するじゃないわああああ~~~!この常春莫迦があああああああああ~~~~!!!」
今度は絳攸の絶叫が響き渡ったのだった。



拍手ありがとうございます。


その後の楸瑛は
①なかなか手に入らない『絳攸黒草子』なのでがっかりする。
②隠してあった他の草子が見つからなくて良かったと安堵する。
③どうせ破るなら、桃色草子だったら良かったのに。と思う。

どれだと思いますか?全部?当たりです(笑)



拍手文 2010/9 [過去拍手文]

遅くなってすみません。

9月の拍手文です。




1

二百十日

ビュウービュウーと強い風が吹き荒れている。
ザザッザザッと時折強くなる雨音が普通の雨と違うことを示していた。

「まさか、本当に来るとはな」
今日は立春から数えて二百十日目。台風襲来の特異日といわれている。
仙洞省からの通達をうけて、ほとんどの官吏は帰っていた。
残っているのは、仕事が終らない吏部と、各部の宿直、そして警備に当たる武官だった。

もともと少し高い所に建てられているので、洪水の心配は無い。
残った人々は外朝の真ん中にある一室に避難していた。
数本のろうそくを灯した室内は薄暗く、閉め切った部屋は蒸し暑い。

「とにかく、台風が過ぎるまでは何もできません。さっさと寝ることにしましょう」
楊修がそう言うと、周りにいた官吏たちも同意して雑魚寝を始めた。
ビュー、ザザッという大きな風と雨の音よりも、蒸し暑さよりも日頃の仕事の疲れの方が勝ったのだろう、次第に寝息が聞こえ出した。


ガタガタッと風で雨戸が震えた瞬間、ろうそくの火が消えてしまった。
真っ暗闇になった室内にまだ起きていた人たちの声。
「ろうそく、どうする」
「寝るだけだから、いいんじゃね」
「・・・・・・あっ」
「厠行くときに、人踏んだら困りますよ」
「それもそうか」
「・・・や、・・・あ」
「・・・?」
「ば、・・こんなとこで・・・・」
「???」
「だれか!灯りを点けなさい!」
楊修の絶叫に慌てて武官がろうそくに火を灯すと、李侍郎に乗っかって不埒なことをしている将軍がいた。
「こんの、常春があ~~~~!」
胸元を乱して真っ赤に顔を染めた絳攸が楸瑛を殴り、楸瑛は暴風雨の中に追い出されたのだった。



拍手、ありがとうございます!
二百十日(にひゃくとおか)は雑節のひとつで、台風襲来の特異日として農家の三大厄日とされているそうです。今年は9月1日です。




2

二百二十日

二百二十日の今日も台風が近づいていた。
「今日の方が大きいみたいですね」
珀明が仙洞省からの台風襲来の情報を吏部に伝える。
十日前の事もあるので、吏部官吏は必死で仕事をした。衆人環視の中で大切な吏部侍郎が
男に襲われるなどあってはならないことだ。
それでも仕事は終らなくて、結局同じように吏部官吏と宿直と武官が避難所にしている部屋に集められた。
支給された夕食を取りながら対策会議が行われる。
「なんで帰らなかったんですか」
「お前達が頑張ってるのに、帰れるか!」
その気持ちはありがたいけれど、少しは自覚してもらいたい。
全吏部官吏はそう思ったが、いまさらである。

「問題は寝たときです」
「灯りなど、どうでもできますからな」
「李侍郎を我らで囲んで寝るというのはどうですか?」
「大将軍に頼んでこちらの警護から外してもらったのだし、今日はそこまで心配しなくても」
「甘いですね。どこからでも湧いてでるボウフラと珠翠殿もおっしゃっています。用心に越したことはありません」
まるで災害みたいな言われかたである。

何事もなく時間は過ぎて行き、寝ることになった。
「絳攸、こちらに来なさい」
楊修が手招きをするので絳攸が近づくと胡坐をかいた膝の中に座らされた。
「・・・・恥ずかしいのですが」
「黙りなさい、さ、碧官吏前に」
「失礼します」
珀明が恥ずかしそうに絳攸に抱きついた。
「これで前も後ろも大丈夫です。安心して寝なさい」

眠れるか~~~!

どう見ても3(自重しました)にしか見えない状況に、その室にいる全員が突っ込みをいれたのだった。

拍手ありがとうございました!
楸瑛は翌日の朝、睡眠不足と暑さでふらふらしていた絳攸をお持ち帰りしたと思います。



二百二十日(にひゃくはつか)
二百十日とともに天候が悪くなると恐れられて来たそうです。
統計的には二百二十日の方が台風が襲来することが多いそうです。
今年は9月11日です。



拍手文 2010/8 [過去拍手文]

更新もないのに、来てくださって申し訳ありません。

ちょっと煮詰まってます・・・・。がんばるね~

8月の拍手文です。 いつも忘れてすみません。





1

熱中症に気をつけましょう


今年の貴陽は猛暑だ。
外朝をさまよっていた絳攸は、滝のような汗をかきながら焦りはじめていた。
・・・・そろそろやばい
この暑さに迷子体質は命とりだ。迷子など認めたくないが、早く水を飲まなくては大変なことになるのはわかる。
軽く始まった頭痛とめまいに絳攸は立つことが出来なくなって、その場にしゃがみこんだ。

「やっと見つけた」
視界は真っ暗だったが、楸瑛の声にホッとする。
抱き起こされて、口に当てられた筒から水が流れ込んでくる。
ごくごくと咽を鳴らしながら飲み干し、楸瑛にもたれるようにして意識を手放した。


「涼しい場所に運ばなきゃ」
風の通る木陰に絳攸を運んで、胸元から最近配布された「熱中症対策指南書」を取りだした。毎年、軍の演習中に倒れる者が出るので、今年は陶老師が中心になって指南書が作られたのだ。
そこには、衣服をゆるめて、水分を補給すれば回復すると書かれていた。さらに、足を高くして手足を中心部にむけて揉むのも有効だとか。

「こ、絳攸、やましい気持ちは無いからね。そうしないとよくならないから・・・」
絳攸の服を脱がして、体を揉むなんて・・・官舎に連れて行けばよかった。
そんな不埒なことを考えながら、絳攸の官服に手をかけた。

バシッ!
「ぎゃあ!」
楸瑛の後頭部に扇が見事に当たった。いたたたと振り返れば、紅尚書が立っていた。
「何するんですか」
「それに何をする気だ」
「絳攸が熱中症になったから、介抱してあげようと・・・・」
「水を汲んでこい。絳攸の世話は私がする」
反論しようにも、絳攸よりも冷たい氷の視線が突き刺さり逆らえなかった。
結局、楸瑛は黎深様にこき使われ、絳攸には指一本触れることが出来なかったのだった。







ほんとに暑いです   にょた絳攸で


卓子の上に置かれた薄紅色の衣装を前に、双花菖蒲の二人は無言だった。

「えっと・・・・絳攸、それはなにかな?」
「砂漠の地方の衣装らしい・・・・・お前知っているか?」

先日、絳攸が熱中症で倒れてしまった。こんなに暑いのにきっちり官服を着ているのが悪いのではないかと、口には出さないが絳攸に甘い養い親は貴陽よりも暑い砂漠地方の衣装を取りよせたらしい。

卓子の上に広げられた衣装はキラキラとした飾りがたくさん付いていて、さらさらした生地は気持ちよさそうだ。そして、上衣はどうみても胸しか隠れないモノだった。

「こちらの下衣は貴陽でも着ている形じゃないかな」
いたたまれなかったのか、楸瑛が下衣を手に取って言った。
腰から足首まで長さがある下衣は布をたっぷり使ってある。
「透けなきゃな」
「・・・・・これを着るの?」
衣装を睨むようにみている絳攸に返事は無かった。
黎深殿に与えられたのなら着るしかないのだろう。
「ちょっと着てみる?」
無言の雰囲気にたまりかねて口を滑らせた楸瑛は怒られると身構えたが、
返ってきた言葉は思いがけないものだった。
「そうだな、着てみて具合が悪いようなら黎深様に断れるからな」

ええええええ?これ着るの?どこで?朝廷で?いやいやいや、
ここで、ここでぜひ着て欲しい!楸瑛の心からの叫びが通じたのか、絳攸は侍女を借りると別室に入っていった。

楸瑛は藍邸の書庫に飛び込むと砂漠地方の風習が書かれた書籍、巻物を必死で探した。
着替えた姿はまだ見ていないが、想像は出来る。あの衣装で朝廷に出仕をさせられなかった。というか、させたくない。
あの衣装で熱中症を防げることは出来ないという証拠が必要だ。

数刻後
「楸瑛、どこだ」
絳攸の声がしたので戻ってみると、胸だけ隠してお腹丸出し、下衣は付けていても太ももあたりからはうっすら透けてみえる、ジャラジャラした飾りを付けた見たことの無い妖艶な絳攸が立っていた。
・・・・・ああああああ、絳攸、なんて綺麗な・・

ドタン!
可愛い絳攸を堪能出来たのはほんの数秒、楸瑛は蒸し暑い書庫に籠っていたため、熱中症で倒れたのだった。

楸瑛が手に持っていた巻物によって、べりーだんすの衣装であること、砂漠では着ないことが分り、きらきらした衣装は二度と着られることは無かったのだった。



ちょっと楸瑛がいい思いしたかもしれません。
拍手ありがとうございました。


拍手文 2010/7 [過去拍手文]

忘れておりました。すみません。

7月の拍手文です。



まだ梅雨です

工部に珍しい来客があった。
「お、李侍郎じゃねえか。陽玉に用か?」
扉を開けただけで、むせかえるような酒の匂い。梅雨時で湿度が高いから尚更むうっとした匂いが立ちこめる。
酒に強くない絳攸は、すでにくらくらしながら返事をする。
「いえ、管尚書にお願いがありまして」
絳攸は管尚書から望みのものを受け取ると去っていった。

「ありゃあ、藍将軍が夢中になるのわかるなぁ」
酒の匂いだけで酔って頬を染めた李侍郎から、なんとも言えない初々しい可愛さがにじんでいた。
「ま、陽玉の色気には及ばねぇけどな」
だけど、あれを何に使うのだろう。首をかしげながら管尚書は仕事に戻っていった。

「絳攸~」
定刻が過ぎ、楸瑛が侍郎室に入ってきた。絳攸の手をとると、一緒に帰ろう、ついでに夕餉でも、そのまたついでに藍家に泊りにおいでといつものように能天気に話しかけてくる。
「あれ、この匂いは・・・」
楸瑛が目ざとく机に置いてある小瓶をに目を向ける。
「茅炎白酒・・だね?」
酒に強くない絳攸がなぜ、と楸瑛が不思議そうに聞いた。

・・・・飲ませて正夢にしちゃおうかな、なんて思ったことは絳攸には内緒だ。

「黎深様が教えてくださったんだ」
絳攸は楸瑛に握られている手を引くと、手巾に瓶の中の茅炎白酒を沁み込ませる。
「高濃度の酒は消毒に使えるらしい」
そう言って、手をふきはじめた。
「絳攸?!ど、どういう意味?」

えっと、常春菌消毒・・・かな?
うるうると泣く楸瑛に絳攸は「そのままの意味だ」と言いそうです。





7月はやっぱり七夕

「願い事を短冊に書くんだよ」
そういって、楸瑛が色とりどりの短冊を差し出した。

「なになに、黎深様が健康でいますように。君は本当に黎深殿が好きだねぇ」

「次は・・・百合さんがずっと綺麗でいますように。実際、お綺麗だよね百合姫って」

「これで終り?・・・・・私のことは?」

「・・・楸瑛が紅州牧に、自分は藍州牧になり・・ええ!?本気?本気なの?絳攸?!」
真剣な目でしがみついてくる楸瑛に、絳攸が答える。

「紅州と藍州だったら国の端と端。一年に一回、朝賀のときに会えるなんて、織姫と牽牛みたいでいいだろう?」
この際、悠舜殿に異動の申告をしてこようと言った絳攸に、抱きしめている腕に力を込めると楸瑛は囁いた。
「本気じゃないよね?今さら離れるなんてできないよ」
不安の混じった声音に、絳攸は苦笑して楸瑛の背中に腕をまわすと、そっと自分からくちづけをした。

「お前は何を書いたんだ?」
自分からなんて、恥ずかしすぎて誤魔化すように絳攸は楸瑛の書いた短冊を手に取った。

「一日も早く絳攸と○○(自主規制)出来ますように」
「・・絳攸と毎日○○(自主規制)が出来ますように」
「・・・・絳攸のお口で○○(また自主規制)してくれますように・・」
「あっ!絳攸、何するの」
まだまだある短冊をぎゅううっと握り潰し、楸瑛が止めるのも構わずにくしゃくしゃにすると、やっぱり藍州牧に立候補しようと心に決めたのだった。


拍手、ありがとうございました~

拍手文 2010/6 [過去拍手文]

拍手文を変えたのに忘れておりました(汗)

6月の拍手文です。みんな父の日です。



父の日     絳攸

六月も半ばをすぎると、雨が多くなってくる。
雨が上がり、雲の切れ目から月が見えると絳攸は胸をなでおろした。
黎深様を月見にお呼びしているのだ。

庭の四阿で、杯を空けながら黎深は月を見た。
今日は二十日。半月よりすこし太った月が沈む頃、上玄の月になる。
絳攸が用意した酒は、黎深の好む味で、秀麗に作ってもらったという菜も旨かった。
養い子はそれが「父の日」の贈り物だと思っているのだ。

お前の作った饅頭で十分なのに。

不器用な親子は交わす言葉も少なくて、つい酒を過ごしてしまった。
うとうとしかける黎深に絳攸は背中を向けてしゃがみこむ。
「黎深様、どうぞ」

細身なのに、黎深を背負ってもぐらつくようなことはなく、確かな足取りで母屋にむかう。
背中から聞こえてくるのは、規則正しい寝息。

絳攸は自分にも聞き取れないほどの、小さな声でささやいた。
「父上・・・」

狸寝入りをしていた黎深への、本当の贈り物。






父の日 2    コウ

「黎深様、黎深様、なにかして欲しいことはありませんか」

公休日でのんびり長椅子に寝ころんでいた黎深にコウが話しかける。
「何もない」
絳攸の方を見もしないで黎深は返事をする。
「・・・・・そうですか」
シュンとした声で絳攸は室を出て行った。


「黎深、君はコウに何をいったのさ!」
数刻たって、コウのことなど忘れていた黎深は百合に怒鳴られてむっとした。
「何もいってない」
「うそばっか、コウが出て行ったんだよ」

大妖怪、化け狸タヌタヌの根城だと、出て行くことなど出来ないとあれほど脅しておいたのにコウは迷子にもならないで門から出ていったのだ。
あんな稀にみるいい子なのに、きっとこの鬼畜野郎に嫌気がさして出ていってしまったのだと百合は黎深を睨みつけた。

「逃げたら狸のえさにしてやると言っておいたのに」
「だから!そのいい方が駄目なんだろ!」

二人が言い争いをしている最中に、当の絳攸は家人に連れられて戻ってきた。

「・・・・おじゃまでしたか?」
腕にいっぱい抱えているのは、紅く実ったすもも。

「おこづかいで、何か買おうと思ったのですが、よくわからなくて」
黎深様が着る衣の色に似ていたので、と言いながら卓子の上にころころと置かれるすももを見る二人の耳元で家人がささやいた。
「本日は父の日でございます」





父の日 3    女体化絳攸

父の日だからと、今日の夕餉の菜は絳攸が作ったらしい。
野菜の形がいびつだったり、味付けが微妙におかしいはずだ。
黎深はお茶を飲みながら、相変わらず薄い煎餅のような饅頭を口にした。

緊張しながら、お茶のお代わりをついでいる絳攸を見る。

拾ってから、勉学ばかりを詰め込んできた養い子も、菜を作るようになってしまった。
邸では女人の姿をして、侍女に化粧やら、最新の髪型とやらを教えてもらっているのを聞くと、そろそろなのかと不機嫌になる。

世間の適齢期はとっくに過ぎた。

それでも、誰にもやりたくないと思うのは、単なる我儘なのだろうか。

「絳攸、ここに来い」

膝を叩くと、ためらいながらも乗ってくる。
細身だけれど、幼かったころとは確かに違う重み。

「嫁に行くか?」
「行きません」
「うそをつくな」
「ずっと黎深様と百合さんのおそばにいます」

そのうち藍色の衣をまとうようになるだろう娘のうそに、扇で見えないようにして微笑んだ。






父の日 4   ちび絳攸 

注意! 黎深と百合は今の歳で、絳攸は三歳で最近引き取られた設定です。


連日の雨が上がり、湿気をはらうような風が邸の中を気持ちよく通っていく。

「コウがお昼寝しているから、静かにしてね」
洗濯物をたくさん抱えた侍女と百合が通りがかってそう言うと去っていった。

見ると、コウが敷布の上で親指を吸いながら、すぴすぴと寝息をたてている。
片手には紅い、大きめの手巾。
「指を吸うと出っ歯になるぞ」
黎深は最近仕入れた子育て知識を思い出して、絳攸の親指を抜こうとした。
寝ているくせに、案外力が強くて、眉間に皺をよせて抵抗する。

無理に抜いたら泣きだした。

ふぇ~んと泣く絳攸に黎深があたふたしていると、百合が戻ってきて怒られた。

絳攸にとって、指と紅い手巾はとても大事なものらしい。

「今日はいいことを教えてあげようと思っていたのに」
そう言うと百合が絳攸を抱き上げて連れて行ってしまった。

つまらない。

絳攸の一番は指と手巾で、百合の一番は絳攸らしい。
不貞腐れて、ふて寝を決めこんだ。

 
ぽてぽてと足音が聞こえる。うっすらと目を開くと昼寝から起きた絳攸が紅い手巾を引きずって立っていた。

「ととたま」

絳攸が初めて黎深を呼んだ日。



拍手文 2010/5 [過去拍手文]

2010年5月の拍手文です。



5月10日~16日は愛鳥週間

「今日の夜、うちに来れるか?」
愛する絳攸のお誘いを断るはずもなく、羽林軍の演習もそこそこに楸瑛は朝廷を出た。

一度邸に戻って、湯あみしたほうが良かったかな、汗臭いと嫌われないだろうか。
演習の後にからだも髪も水浴びしたが、藍邸の香油が入った湯につかったほうが絶対いい匂いがするはずで・・・。

でも、街で人気の菓子を買いたかったし、遅れると怒るだろうから楸瑛はそのまま李邸に向かった。

「黎深様がお出かけなさる」

楸瑛の耳には、昼間の絳攸の声が残っている。

それって、それって、もしかして、お誘い?

拍手の題名が気になるが、それは絳攸を小鳥のように啼かしていいってことだよね?

黎深殿が藍家を嫌っているので、李邸に行くことはほとんどない(自分で言ってせつない)絳攸の室に入るなんて初めてだ。

家人に案内されて絳攸の室に入る。待っていたのは満面の笑みの絳攸。

楸瑛も微笑みを浮かべて抱きしめるために、絳攸に手を差し出した。

「見てくれ!文鳥を頂いたんだ!」

楸瑛の手のひらに乗せられた鳥かごには、文鳥が2羽はいっていた。

(お約束)




まだ愛鳥週間


「へええ、文鳥を飼っているの」
楸瑛の声はいささか引き攣っていたが、文鳥を覗きこんでいる絳攸は気付かない。
「黎深様と百合さんからな。かわいいだろう?」
たしかに、白文鳥と桜文鳥は可愛かった。でも絳攸のほうがずっと可愛いよと楸瑛は思う。
「出しても逃げないんだ」
いそいそと籠を開けて、絳攸が手をさしだす。文鳥はぴょこっと手に収まった。
「手のりにしたの?」
「手のり?」
「雛のうちに親から離して人間が育てると、飼い主にすごくなつくんだよ」

言ってから、しまったと思ったが遅かった。絳攸の顔が曇る。
「黎深様も百合さんも、そんなことしない」
「そうだよね!きっと人懐こい文鳥なんだよ」
気を取り直したのか、絳攸が笑って楸瑛もさわっていいぞと文鳥を差し出した。

よかった。絳攸の機嫌がなおって。
楸瑛が文鳥を受け取ろうとしたとたん、ぱたぱたと飛び上がり、楸瑛目指して急降下した。

ぐさぐさっ!
「痛ーっつ!!!!」
文鳥は楸瑛の生え際を容赦なく突き刺した。

「楸瑛!」

籠に戻った文鳥たちがキランと目を光らせたことに気がつかなかった。
 
・・・・私達の絳攸に手を出そうなんて十年早いわよ

結局、小鳥に泣かされたのは楸瑛だった。

黎明・・・を読んだ人にだけわかる話ですみません。

拍手ありがとうございました。

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