拍手文 2010/6 [過去拍手文]
拍手文を変えたのに忘れておりました(汗)
6月の拍手文です。みんな父の日です。
父の日 絳攸
六月も半ばをすぎると、雨が多くなってくる。
雨が上がり、雲の切れ目から月が見えると絳攸は胸をなでおろした。
黎深様を月見にお呼びしているのだ。
庭の四阿で、杯を空けながら黎深は月を見た。
今日は二十日。半月よりすこし太った月が沈む頃、上玄の月になる。
絳攸が用意した酒は、黎深の好む味で、秀麗に作ってもらったという菜も旨かった。
養い子はそれが「父の日」の贈り物だと思っているのだ。
お前の作った饅頭で十分なのに。
不器用な親子は交わす言葉も少なくて、つい酒を過ごしてしまった。
うとうとしかける黎深に絳攸は背中を向けてしゃがみこむ。
「黎深様、どうぞ」
細身なのに、黎深を背負ってもぐらつくようなことはなく、確かな足取りで母屋にむかう。
背中から聞こえてくるのは、規則正しい寝息。
絳攸は自分にも聞き取れないほどの、小さな声でささやいた。
「父上・・・」
狸寝入りをしていた黎深への、本当の贈り物。
父の日 2 コウ
「黎深様、黎深様、なにかして欲しいことはありませんか」
公休日でのんびり長椅子に寝ころんでいた黎深にコウが話しかける。
「何もない」
絳攸の方を見もしないで黎深は返事をする。
「・・・・・そうですか」
シュンとした声で絳攸は室を出て行った。
「黎深、君はコウに何をいったのさ!」
数刻たって、コウのことなど忘れていた黎深は百合に怒鳴られてむっとした。
「何もいってない」
「うそばっか、コウが出て行ったんだよ」
大妖怪、化け狸タヌタヌの根城だと、出て行くことなど出来ないとあれほど脅しておいたのにコウは迷子にもならないで門から出ていったのだ。
あんな稀にみるいい子なのに、きっとこの鬼畜野郎に嫌気がさして出ていってしまったのだと百合は黎深を睨みつけた。
「逃げたら狸のえさにしてやると言っておいたのに」
「だから!そのいい方が駄目なんだろ!」
二人が言い争いをしている最中に、当の絳攸は家人に連れられて戻ってきた。
「・・・・おじゃまでしたか?」
腕にいっぱい抱えているのは、紅く実ったすもも。
「おこづかいで、何か買おうと思ったのですが、よくわからなくて」
黎深様が着る衣の色に似ていたので、と言いながら卓子の上にころころと置かれるすももを見る二人の耳元で家人がささやいた。
「本日は父の日でございます」
父の日 3 女体化絳攸
父の日だからと、今日の夕餉の菜は絳攸が作ったらしい。
野菜の形がいびつだったり、味付けが微妙におかしいはずだ。
黎深はお茶を飲みながら、相変わらず薄い煎餅のような饅頭を口にした。
緊張しながら、お茶のお代わりをついでいる絳攸を見る。
拾ってから、勉学ばかりを詰め込んできた養い子も、菜を作るようになってしまった。
邸では女人の姿をして、侍女に化粧やら、最新の髪型とやらを教えてもらっているのを聞くと、そろそろなのかと不機嫌になる。
世間の適齢期はとっくに過ぎた。
それでも、誰にもやりたくないと思うのは、単なる我儘なのだろうか。
「絳攸、ここに来い」
膝を叩くと、ためらいながらも乗ってくる。
細身だけれど、幼かったころとは確かに違う重み。
「嫁に行くか?」
「行きません」
「うそをつくな」
「ずっと黎深様と百合さんのおそばにいます」
そのうち藍色の衣をまとうようになるだろう娘のうそに、扇で見えないようにして微笑んだ。
父の日 4 ちび絳攸
注意! 黎深と百合は今の歳で、絳攸は三歳で最近引き取られた設定です。
連日の雨が上がり、湿気をはらうような風が邸の中を気持ちよく通っていく。
「コウがお昼寝しているから、静かにしてね」
洗濯物をたくさん抱えた侍女と百合が通りがかってそう言うと去っていった。
見ると、コウが敷布の上で親指を吸いながら、すぴすぴと寝息をたてている。
片手には紅い、大きめの手巾。
「指を吸うと出っ歯になるぞ」
黎深は最近仕入れた子育て知識を思い出して、絳攸の親指を抜こうとした。
寝ているくせに、案外力が強くて、眉間に皺をよせて抵抗する。
無理に抜いたら泣きだした。
ふぇ~んと泣く絳攸に黎深があたふたしていると、百合が戻ってきて怒られた。
絳攸にとって、指と紅い手巾はとても大事なものらしい。
「今日はいいことを教えてあげようと思っていたのに」
そう言うと百合が絳攸を抱き上げて連れて行ってしまった。
つまらない。
絳攸の一番は指と手巾で、百合の一番は絳攸らしい。
不貞腐れて、ふて寝を決めこんだ。
ぽてぽてと足音が聞こえる。うっすらと目を開くと昼寝から起きた絳攸が紅い手巾を引きずって立っていた。
「ととたま」
絳攸が初めて黎深を呼んだ日。
6月の拍手文です。みんな父の日です。
父の日 絳攸
六月も半ばをすぎると、雨が多くなってくる。
雨が上がり、雲の切れ目から月が見えると絳攸は胸をなでおろした。
黎深様を月見にお呼びしているのだ。
庭の四阿で、杯を空けながら黎深は月を見た。
今日は二十日。半月よりすこし太った月が沈む頃、上玄の月になる。
絳攸が用意した酒は、黎深の好む味で、秀麗に作ってもらったという菜も旨かった。
養い子はそれが「父の日」の贈り物だと思っているのだ。
お前の作った饅頭で十分なのに。
不器用な親子は交わす言葉も少なくて、つい酒を過ごしてしまった。
うとうとしかける黎深に絳攸は背中を向けてしゃがみこむ。
「黎深様、どうぞ」
細身なのに、黎深を背負ってもぐらつくようなことはなく、確かな足取りで母屋にむかう。
背中から聞こえてくるのは、規則正しい寝息。
絳攸は自分にも聞き取れないほどの、小さな声でささやいた。
「父上・・・」
狸寝入りをしていた黎深への、本当の贈り物。
父の日 2 コウ
「黎深様、黎深様、なにかして欲しいことはありませんか」
公休日でのんびり長椅子に寝ころんでいた黎深にコウが話しかける。
「何もない」
絳攸の方を見もしないで黎深は返事をする。
「・・・・・そうですか」
シュンとした声で絳攸は室を出て行った。
「黎深、君はコウに何をいったのさ!」
数刻たって、コウのことなど忘れていた黎深は百合に怒鳴られてむっとした。
「何もいってない」
「うそばっか、コウが出て行ったんだよ」
大妖怪、化け狸タヌタヌの根城だと、出て行くことなど出来ないとあれほど脅しておいたのにコウは迷子にもならないで門から出ていったのだ。
あんな稀にみるいい子なのに、きっとこの鬼畜野郎に嫌気がさして出ていってしまったのだと百合は黎深を睨みつけた。
「逃げたら狸のえさにしてやると言っておいたのに」
「だから!そのいい方が駄目なんだろ!」
二人が言い争いをしている最中に、当の絳攸は家人に連れられて戻ってきた。
「・・・・おじゃまでしたか?」
腕にいっぱい抱えているのは、紅く実ったすもも。
「おこづかいで、何か買おうと思ったのですが、よくわからなくて」
黎深様が着る衣の色に似ていたので、と言いながら卓子の上にころころと置かれるすももを見る二人の耳元で家人がささやいた。
「本日は父の日でございます」
父の日 3 女体化絳攸
父の日だからと、今日の夕餉の菜は絳攸が作ったらしい。
野菜の形がいびつだったり、味付けが微妙におかしいはずだ。
黎深はお茶を飲みながら、相変わらず薄い煎餅のような饅頭を口にした。
緊張しながら、お茶のお代わりをついでいる絳攸を見る。
拾ってから、勉学ばかりを詰め込んできた養い子も、菜を作るようになってしまった。
邸では女人の姿をして、侍女に化粧やら、最新の髪型とやらを教えてもらっているのを聞くと、そろそろなのかと不機嫌になる。
世間の適齢期はとっくに過ぎた。
それでも、誰にもやりたくないと思うのは、単なる我儘なのだろうか。
「絳攸、ここに来い」
膝を叩くと、ためらいながらも乗ってくる。
細身だけれど、幼かったころとは確かに違う重み。
「嫁に行くか?」
「行きません」
「うそをつくな」
「ずっと黎深様と百合さんのおそばにいます」
そのうち藍色の衣をまとうようになるだろう娘のうそに、扇で見えないようにして微笑んだ。
父の日 4 ちび絳攸
注意! 黎深と百合は今の歳で、絳攸は三歳で最近引き取られた設定です。
連日の雨が上がり、湿気をはらうような風が邸の中を気持ちよく通っていく。
「コウがお昼寝しているから、静かにしてね」
洗濯物をたくさん抱えた侍女と百合が通りがかってそう言うと去っていった。
見ると、コウが敷布の上で親指を吸いながら、すぴすぴと寝息をたてている。
片手には紅い、大きめの手巾。
「指を吸うと出っ歯になるぞ」
黎深は最近仕入れた子育て知識を思い出して、絳攸の親指を抜こうとした。
寝ているくせに、案外力が強くて、眉間に皺をよせて抵抗する。
無理に抜いたら泣きだした。
ふぇ~んと泣く絳攸に黎深があたふたしていると、百合が戻ってきて怒られた。
絳攸にとって、指と紅い手巾はとても大事なものらしい。
「今日はいいことを教えてあげようと思っていたのに」
そう言うと百合が絳攸を抱き上げて連れて行ってしまった。
つまらない。
絳攸の一番は指と手巾で、百合の一番は絳攸らしい。
不貞腐れて、ふて寝を決めこんだ。
ぽてぽてと足音が聞こえる。うっすらと目を開くと昼寝から起きた絳攸が紅い手巾を引きずって立っていた。
「ととたま」
絳攸が初めて黎深を呼んだ日。
2010-07-11 23:07
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