SSブログ

偽りの秘書 10 (完) [その他 2次創作]

偽りの秘書 完結になります。

絳攸は女体化です。

現代の高校生絳攸とは別のお話です。

ハーレクインを目指しながら、ちっともHQにはなりません。

大丈夫な方のみ、続きからどうぞ

偽りの秘書 10 

 紅州にある別邸の暮らしに絳攸はようやく慣れてきた。
強も仕事も何もしないで、本を読んだり庭を歩いたりして日々が過ぎていった。
忙しくしていた方が気が紛れると思って、養父の秘書に戻りたいと訴えたけれど却下された。
そのかわり百合さんが料理やフラワーアレンジメントなどを教えてくれる。
週末には養父がプライベートジェットで貴陽から別邸に帰ってきて、三人で穏やかに過ごす
箱庭のような守られた幸せに絳攸の傷付いた心は癒されていった。

 絳攸は読みかけの本を持って、定位置になった窓辺の椅子に座る。
ガラス越しに見える雲が入道雲から秋の雲に変わっていた。
「もう、秋だな」
泣いてしまうこともまだあるけれど、時がたてばそれも薄らいでいくのだろう。
紅黎深の養女だと自分から言ったとしても、結果は変わらなかったと思う。
憧れの人が一瞬でも恋人になってくれた。それだけでいい。
煌びやかなパーティーや腰にまわされた手の感触、笑い声、触れるだけの長いキス。
一度だけ知った、楸瑛の体の重み。その思い出があれば生きていける。
もしかしたら将来、姪や甥に『あの藍楸瑛とデートしたことがある』なんて自慢できる日がくるかもしれない。

「きっと、これでよかったんだ」
「本当にそう思う?」
聞きなれた声に慌てて立ち上がった
 部屋の入り口に楸瑛が立っていた。

 なぜという気持ちよりも楸瑛のやつれた顔に絳攸は驚いた。
仕立てのいい服装もなぜかところどころ破れているように見える。
「痩せた・・・」
「君も」
見つめ合った楸瑛の瞳には怒りは見えなかった。
「どうしてここへ」
「謝りに。君に許してもらいたくて」
楸瑛はそう言って絳攸に近づくと手を握った。
「私の勘違いで酷いことを言ってしまった・・・絳攸、許してくれるかい?」
「・・・許すもなにも紅家の養女だって知ったら誰だって・・・」
目を伏せて辛そうに話す絳攸に楸瑛は胸が痛くなる。
「それでも許して欲しい。秘書になった理由は兄達にきいたよ」
「そう・・・」
絳攸も養父から理由を聞かされたことを思い出した。

*  

「賭だ」

別邸に移って間もないころ、楸瑛の秘書に命じた理由をきく絳攸に面倒くさそうに黎深が答えた。
数年前、黎深の養女の絳攸と雪那達の弟の楸瑛の自慢話になったのがきっかけだったらしい。絳攸が紅黎深と繋がりがあることを3年以内に楸瑛が気付くか、絳攸が見破られないまますごせるかを賭けたと養父は言った。「勝ったら兄上と温泉旅行に行けたんだがな」
  賭けのために・・そう思うと悲しくて数日部屋に籠っていたら、貴陽から叔父の卲可が来てくれた。
「アレが変なことを言ったらしいね」
そして叔父は本当のことを教えてくれた。
初めて養父とパーティーに出たあとから絳攸にまとわりつく男が現れたこと。
黎深と楊修がその男に気がついて、犯罪になる前に絳攸を隠すことにしたこと。
そのために紅家と絶対関係しないだろう藍家に協力してもらったことを。
「守るためにしたことなのだろうけど。嫌な思いをさせたね」
「いえ。とても・・・とても素晴らしい経験をしました。叔父様、どうぞ皆さんと旅行に行ってあげてください」
「私が黎深と雪那君達を叱ったとわかったのかい?」
穏やかに笑うこの叔父が、養父と藍雪那達をやすやすと従えることができるのを知っているのはごく僅かだ。そして絳攸は優しい叔父が大好きだった。
「卲可叔父様ですから」
「もう少し反省させてから考えることにするよ」
笑って卲可は帰って行った。本当の理由を知って絳攸は穏やかな気持ちになった。不満に思っていた野暮ったい服装も新たなストーカー対策だったと知って、わかりにくい養父母の愛情に苦笑した。

 * 

「君がスパイでも愛人でもないと分って、すぐにマンションに行ったんだ」
楸瑛が絳攸の手を握ったまま話し出した。まるで手を離したら絳攸がいなくなってしまうかのように。
「そうしたら、君はいなくて・・・」
「黎深さ・・・父が迎えに来てくれて」
「うん、さすが黎深社長だね。やることが半端ない」
たった数時間のうちに住んでいた痕跡も残さずに引越しを完了させたのだから。
「君に会いたくて、お父上に面会を申し入れたけどずっと門前払いでね」
 楸瑛が直接会社に行っても、社長室の前に陣取る楊修に隙はなく、伝言しか残せなかったきっと伝言も伝えてもらえていなかったと思う。
仕方がないので藍州に戻って、兄達を問い詰めた。焦っているというのにあの三人の兄は
「じゃあ私達が黎深に勝ったのかな?」
「楸瑛は人に教えてもらったんでしょう?」
「卲可先生と温泉旅行は無しってこと?」
「「「楸瑛、ダメだね~もっと使えるようにならないと」」」
などと言ったのだ。普段温厚な楸瑛が睨んだら、やっと本当にことを教えてくれたのだが。

貴陽に戻ってまた何度も会いに行って半年、やっと絳攸の居場所を聞き出すことができた。
『門は開かないと思え』というメッセージとともに。  

「どうやってここに?」
元々療養所の役割で使われていた別邸は、紅家の広大な敷地の中にひっそりとあって存在はほとんど知られていない。そして来客がある場合は紅家の本邸から連絡が必ず入ることになっている。
絳攸は楸瑛が来たことを知らされていなかった。
「紅州に来たのは・・・4日前かな
忙しい仕事の合間をぬって、どうにか1週間の休暇を取って駆け付けた。
門は開かないと言われていた。そのとおりだった。返事さえなかった。
楸瑛はヘリを使って別邸らしい建物を見つけると数日かけて様子を調べた。そして今日、ヘリからパラシュートを使って庭に降りたのだ

楸瑛の服が破れているのは、木の枝にひっかかったりしたからだと知って絳攸は驚いた。大けがをしたかもしれないのに。
「そこまでして・・・なぜ?」
「じっとしていても君には会えないと思ったからね。謝りたかったし、それに」
「それに・・・?」
繋がっていた手が離されて絳攸は少し不安になった。楸瑛がひざまずいてポケットからビロードの小箱を取り出すまでの短い時間だったけれど。

「絳攸、結婚してほしい」

 * 

「は?」
楸瑛と見事な婚約指輪を交互に見て絳攸は絶句した
差し出された指輪は大きなダイヤモンドをピジョン・ブラッドのルビーが囲んでいた。
まるで紅家に縁のある絳攸に合わせたかのような、真っ赤なルビー。
「早くないか?」
誤解を解いて、仲直りをして、恋人未満の関係から恋人同士になるのだと思っていた。
展開が早すぎる気がする。
「早くないよ。絳攸が受け入れてくれるなら今日にでも結婚したい。一生、私の隣に居て欲しいんだ」
「一生・・・?」
「そう、君しかいらない。絳攸、返事を聞かせてくれるかい?それとも急すぎる?私は返事をもらえるまで何度でもここに来るよ」
からかっても怒ってもいない、真摯な楸瑛の眼差しに「はい」と返事をしたかったけれど、養父母の顔が浮かんで躊躇った。
「れ・・父と母が何ていうか」
孤児の自分を引き取って育ててくれた二人に喜ばれて結婚したい。
「大事なのは絳攸、君の気持ちだよ」

『絳攸、お前の望むことをしろ』
そう、いつも二人に言われていたこと。
 もう一度楸瑛を見た。
藍家を示す青い宝石ではなく、紅家らしい色を選んでくれた楸瑛。
行方が分らない自分を探して、養父に何度も会いに行ってくれた楸瑛。
自分は引き籠って泣くばかりだったのに。絳攸は胸が熱くなった。
「・・・あの日、私が黎深様の養女だと打ち明けるつもりだったんだ」
プロポーズの返事ではなく、喋りだした絳攸を楸瑛は黙って聞いている。
だから絳攸は勇気を出して続けた。

「上司と部下のままだったら、黙っていてもよかったのかもしれない。でも、楸瑛は好きだと言ってくれて、大事にしてくれて・・・もう黙っていたくなかった。本当のことを言えば関係は変わると分っていた。秘書を辞めさせられるって。でも、それでもいいと思った」

絳攸が楸瑛の手を引いて立ち上がらせる。

「偽りのない自分を見て欲しかったんだ」

「絳攸・・・それが返事だと思っていい?」

「・・・馬鹿・・分かれ」

 絳攸が抱きついたのと、楸瑛が抱きしめたのは同時だった。

二人で見つめあった後、楸瑛が耳元でささやいた。

「まずは、口を開けたキスからはじめようか」 

  「偽りの秘書」END 


コメント(2)  トラックバック(0) 

コメント 2

古都莉

わぁ~~!!偽りの秘書が更新されてて興奮しました!
悲しみも次第に癒されていく・・・そうやって楸瑛との思い出を胸に一人で生きていこうとする絳攸に切なくなり、パラシュートで飛んでくる楸瑛に「!!」となり、最後のプロポーズに楸瑛め~!!とメラメラしつつ、絳攸が幸せになって良かった!!と思いました。ストーカー対策、絳攸には必要ですよね!いくら黎深さまや楊修たちが見張っていたとしても、ストーカーの数が増えたら太刀打ちできないですもんね。これからは楸瑛が守っていくのですね!でも黎深様や楊修は楸瑛をストーカー扱いしそうですね(苦笑)パラシュートで侵入してくるし!これからは楸瑛の奥さんとして綺麗なドレスや宝石を身につけて、毎日楸瑛に抱きしめられるんですね!ハーレクインらしい恥ずかしい台詞も、楸瑛なら全然OKですね!面白かったです。
テンプレもコスモスに赤で可愛いですね。秋らしくなってきました。おいしいものがたくさんで困ります。
ではではまたお邪魔しますね~!

by 古都莉 (2012-09-18 18:33) 

よこ

古都莉様

さっそく読んでいただけてありがとうございます!
パラシュートでヘリから降りてみました。ええ、ハーレクインですから(笑)
久しぶりすぎて、1話から自分で読み直しました。楸瑛が・・・恥ずかしいセリフばっかりで(笑)これはHQ、HQだからこれくらい言わなきゃ!と頑張りました。でも、HQじゃなくても楸瑛にはこういうセリフ似合いますよね。
あえて黎深様を(百合さんも)最後にださなかったのですが(出したらハッピーエンドが遠くなる)もう、高い高い壁として立ちはだかりそうです。
古都莉様に面白かったと言っていただけて、書いた甲斐がありました。
まだ暑いですが、秋の気配を感じるようになりましたね。
おいしいものたくさん食べて、健康にすごしたいと思います。
よかったらまた来てくださいね。
本当にありがとうございました!

by よこ (2012-09-18 23:28) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

更新しました更新しました ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。